豊かな才能と愛情にあふれた、時代の変革者だった

文春オンラインから転載
2019(令和元)年6月6日、作家の田辺聖子さんがお亡くなりになりました。
享年91歳。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。
田辺聖子さんは、心細いわたしを慰め、生きていく勇気をくださった恩人の一人です。
20代、これからの人生を思い悩むころ、古本屋で文庫本を買ってきては、田辺さんの本をむさぼるように読んでいました。
いつかお会いしたいと思ってきましたが、生前にお会いすることは叶わなくなってしまいました。
お亡くなりになった日は、蟹座で月が火星と合になり、その後、月とドラゴンヘッドが合、山羊座の土星とオポジションを形成した日でした。
「人生は乗り換えの多い旅」と田辺さんは言う
わたしが一番気に入っているエッセイの一つ、「乗り換えの多い旅」。
大切な人と別れるとき、仕事を変わるとき、今ある場所を離れるとき、
どれだけこのエッセイに励まされたことでしょう。
人生の電車は、たいへん、乗り換えの多い旅なのかもしれない
今までと同じようにできなくなったとき、、
これはもう、乗り換え駅が来たのだ。
つまり、今までの列車に乗っていたのでは、だめなんである。
それを降りて、別の電車に乗り換える必要が生じたのだ。
「乗り換え、乗り換えー。体力下降・気力減退線にお乗り換え願いまあす」
そうか、ここで乗り換えしなくちゃならぬのだ。
いつまでもこの線でいいと思っていたのは誤りであった。
ここから別の支線(それがあるいは本線・幹線なのかもしれぬ)に乗り換えて生きなくてはならないのだ。
人はあわてて荷物をまとめ、発車間際の電車から飛び降りるのである。
そうやって、乗り換え乗り換えして乗り継ぎしつつ、終点までやっていくのが、人間の一生なのかもしれない。
恋を失ったことは不幸であっても屈辱ではない
若さ・美貌・才気などというものも、一生持ちつづけて終点へ到着できると、いちばんいいのだが、こういうのは、わりに早く乗り換えの駅が来る。
また、こういうのに乗っている人ほど、乗り換え駅に気付かないのだ。
つい一本の線にしがみついていて、乗り換えるべき駅がきても下りようとしない。
そのうち電車は停まり、あたりは暗闇、
しまった、さっきの駅で乗り換えるべきであった、
と気付いてもおそい、ということになる。
ことにその乗り換えが辛いのは、人と死別したとき、また愛を失ったときではなかろうか。(恋を失ったことは不幸であっても屈辱ではない)
愛するものとの仲を死で引き裂かれる、これはたぐいもない運命の理不尽である。
その人といつまでも同じ電車に乗っていられる、と思いこんでいたのに、自分だけ、乗り換えなければならない。
一人で乗り換えた支線は心ぼそく淋しく辛く、いつまでも慣れない。
ありし日の思い出、昔の夢に涙するばかり、あたりに気をくばる余裕もないであろう。
そのうち、ふと、涙のあい間に、窓の外の景色に目をやるようになる。
外は快晴、個人の悲しみなど知らぬ気に晴れやかな眺め、それにふと心奪われたとき、まさにそのとき、
「乗り換え・・・乗り換えの方はお急ぎ願います」の声。
悲しみからやっと立ちあがったとき、その人は、乗り換えて別の人生を生きるわけである。
( 乗り換えの多い旅 (集英社文庫) p160~164 より抜粋・加筆)
田辺聖子さんのホロスコープを占う
田辺聖子さんは、1928年3月27日大阪生まれ。
出生時間不明のため、正午生まれでチャートを作成しました。
「悲しみから立ちあがったとき、人は乗り換えて別の人生を生きる」と仰った田辺さん。
きっとホロスコープを読むことをお許しくださるでしょう。
太陽のサビアンシンボルで占う
太陽は牡羊座6度(数え度数、以下同)。
サビアンシンボルは、「2つの領域でうまく自己表現している男」。
このシンボルからは、二重生活によって生活に張りを与えているように読み取れます。
また、対立する2つの要素を引き合いに出し、ダイナミックに物事をとらえることを示しています。
仕事と家庭の両立
田辺さんは、昭和の当時としては珍しい、仕事と家庭の両立を実践された方。
「作家(仕事)と一人の主婦(家庭)」2つの側面をお持ちでした。
「夕方6時には仕事を終え、美味しい肴を準備して、夫君であるカモカのおっちゃんと酒を酌み交わす」
という生活を貫いた田辺さん。
大人気エッセイ「カモカのおっちゃん」シリーズでは、おっちゃん(男性側の意見)と田辺さん(女性側の意見)の掛け合いが絶妙なハーモニーを奏でていました。
牡羊座の太陽・天王星・木星の合
牡羊座6度の太陽は牡羊座4度の天王星と合、オーブを8度とって、牡羊座15度の木星ともコンジャンクション。
この木星は、蟹座15度の冥王星とタイトにスクエア、射手座20度の土星とトライン。
時代の先端を走る革命家ですね!
世の中の常識を覆す生き方が示されています。
田辺さんがトップクラスの作家であったことは間違いなく、ご自身の努力や才能のみならず、多くの人からの引き立てがあったことでしょう。
既存の枠組みを超える
田辺さんが「時代の変革者、既存の枠組みを超える存在」であったことは、
東洋経済ONLINEの記事、田辺聖子「直木賞の常識を壊した」偉大なる才能 にも書かれています。
田辺が携わった文学賞は、女流新人賞やサントリーミステリー大賞、山本周五郎賞など数多くあるが、なかでも全36回と最も多くの回数を選考したのが直木賞だった。
直木賞選考委員としての田辺を見ると、ある重要な特徴がある。
彼女が「既存の枠組みを越える存在」だったということだ。
1)芥川賞受賞者でありながら、直木賞選考委員になった
1934(昭和9)年、直木賞の創設を提唱したのは菊池寛だが、自身も選考委員を務め、1943(昭和18)年に委員から退くにあたって、こう書いている。
「今後は、芥川賞・直木賞とも、芥川賞・直木賞受賞者の中から、適当な人に銓衡委員になって貰うつもりである。」(『文藝春秋』1943年9月号「話の屑籠」)
以来、委員の多くは、それぞれの賞の過去の受賞者を中心に構成されるようになった。
その不文律は現在まで続いているが、芥川賞を受賞した人でありながら後年直木賞の選考委員を任された作家がいる。
中山義秀(第39回~第61回)、松本清張(第45回~第82回)、そして田辺聖子だ。
もともと田辺の作品には「○○文学」というような枠組みに収まらない性質がある。
芥川賞を受賞して、やがて直木賞の選考委員の声がかかったのは、既存の枠にハマり切らない彼女の文学的立場をよく表している。
2)直木賞ではじめて女性の選考委員になった
田辺は直木賞の選考委員にあった「性別という壁」を、はじめて越えた人でもある。
日本の文学賞の選考委員は、長い期間ほとんどを男性が占めていた。
昭和の時代、女性の選考委員というと林芙美子(横光利一賞)や円地文子(谷崎潤一郎賞・平林たい子文学賞)、佐多稲子(野間文芸賞)など数えるほどしかいない。
なかでも直木賞と芥川賞は、歴史の長さや、一般的な注目度では群を抜く存在だったが、創設から50年以上、女性の選考委員が1人もいなかった。
潮目が変わるのは1980年代に入った頃からで、1987(昭和62)年5月、「第97回から女性が選考会に加わる」と発表されたときは、新聞各社が大きく報じるほどに注目が集まっていた。
このとき平岩弓枝とともに、直木賞ではじめて女性の選考委員になったのが田辺聖子だった。
(田辺聖子「直木賞の常識を壊した」偉大なる才能 川口 則弘氏の記事より引用・改変)
夫としての太陽を読む
太陽は自分の人生の目的を表しますが、夫、父親のことも読みとることができます。
カモカのおっちゃんこと医師の川野純夫氏とは、53年前の1966(昭和41)年当時としては革新的な事実婚!
令和元(2019)年の今でも、事実婚は珍しいですが・・・
文学仲間だった川野彰子さんが亡くなり、追悼文を書いたことから彼女の夫であった川野氏と縁ができて、ご結婚されました(田辺さんは初婚、川野氏は再婚)。
川野氏と先妻の間にできた四人の子供を育て上げた人でもありました。
このあたり、水瓶座22度の火星(双子座の月、射手座の土星とアスペクト)も関わっていそうです。
水瓶座の火星と牡羊座の天王星は、ミューチャル・レセプション。
友人の旦那さんだった方と結婚し、なさぬ仲の子供を育てる、というのは博愛主義の水瓶座、天王星、火星らしいですね。
ミューチュアル・レセプションについては、こちらのページもご覧ください。
多くのアスペクトを持つ双子座の月
出生時間不明の月は双子座13~25度の間にあり、ドラゴンヘッドと合。
多くの人に愛され、大衆の人気を集める配置です。
月は射手座20度の土星とオポジション。
正午までのお生まれであれば、魚座の水星・金星と柔軟宮でTスクエア。
豊かなイマジネーション、空想力とともに文筆の才能を表します。
田辺さん独特のふわふわした感じがありますね。
そして、月-土星のアスペクトに、「夕方6時には仕事を終えて、プライベートタイム」らしさが出ています。
双子座の月、射手座の土星、水瓶座の火星、獅子座の海王星とミスティック・レクタングルを形成。
人前でお話することもお好きだったのでしょう。
田辺さんは、旺盛な作家活動のみならず、カルチャーセンターで「源氏物語」などの古典文学講座を持たれていました。
ミスティック・レクタングルは、オポジション(180度)、セクスタイル(60度)、トライン(120度)の組み合わせを内蔵し、通常では到底無理な題材の応用能力とか、強い生産性を持っています。
作家、クリエイターにはかなり多いアスペクトで、仕事能力などではかなり役立ちます。
(完全マスター西洋占星術 (The series of perfect master) p312より引用)
魚座の水星・金星が示す、豊かな才能と愛情
才能を表す水星は魚座にあり、好きなものを表す金星と合。
蟹座の冥王星とトライン。
ご自身の気質や幼少期を表す月は双子座13~24度の間にあり、スクエアを形成。
人間に対する観察力と洞察力に優れ、微妙な心の揺らぎを表現する能力に長けています。
田辺さんが書き残された珠玉の文章、例えば、
「恋(仕事や友人、家族と置き換えてもよい)を失ったことは、不幸であっても屈辱ではない」
という言葉に、わたしはどれだけなぐさめられたことでしょうか。
豊かな愛情と才能を持ち、どんなに傷つけられたとしても立ち上がる底力のあった田辺さん。
1995(平成7)年に起こった阪神・淡路大震災の経験をまとめた『ナンギやけれど…わたしの震災記』も書かれています。
夢見がちな少女時代だったのでしょう。
また、愛らしい声をお持ちだったようです。
「少女時代に習い覚えた唱歌をうたうのが好きで、愛らしい歌声だった」
と言われています。
田辺さんの愛読者であれば、田辺さんが宝塚歌劇の熱烈なファンであり、スヌーピーのぬいぐるみやお人形、ポプリに囲まれて生活されていたことをご存じですよね。
魚座の水星・金星の素晴らしさは、東洋経済ONLINE記事、田辺聖子「直木賞の常識を壊した」偉大なる才能 にも書かれています。
「好きなものを褒めちぎる。
逆に、自分の評価に合わないものでも切り捨てない。
下品にならずに論評する。
田辺の選評は、その難しいことを実にあっさりとやってのけているのだ。
(直木賞選考委員としての)選考姿勢がまた従来の形を越えていた。
それまでの直木賞は、リアリズムにあふれた重厚なものが評価されやすく、ファンタジーやミステリー、冒険小説に対しては厳しい、という側面があった。
しかし田辺は、これらのジャンルにも愛着をもって接する。
景山民夫の『遠い海から来たCOO』、原尞『私が殺した少女』、乃南アサ『凍える牙』、京極夏彦『後巷説百物語』……
面白いエンターテインメント小説が直木賞からこぼれ落ちないように高く評価することも少なくなく、1つの潮流を生んでいく。」
( 田辺聖子「直木賞の常識を壊した」偉大なる才能 川口 則弘 東洋経済ONLINEより引用 )
時代の先端を行く一流の作家であり、多くの人たちを勇気づけてきた田辺聖子さん。
ホロスコープを公開で読ませていただくことに感謝するとともに、心よりご冥福をお祈り申し上げます。